もし20年前の私に、
「将来、ジャパニーズウイスキー、特に 山崎や響は品薄になり、プレミア価格で取引されるようになります」
と言われても、おそらく信じなかったと思います。
なぜなら当時、ウイスキーはそれほど売れる商品ではなかったからです。
メーカーから12ケース仕入れると、1ケースおまけで付いてくる。
そんなキャンペーンも珍しくなかった時代でした。
それが今では世界中で争奪戦になっています。
何が変わったのでしょうか。
ウイスキーでしょうか。
それとも私たちの価値観でしょうか。
なぜウイスキーは人気が高まりプレミア価格になったのか
転機① ハイボールブーム
最初の大きな転機はハイボールでした。
とはいえ、ハイボール自体は新しい飲み方ではありません。
バーの世界では昔から定番でしたし、東京・浅草の老舗バーなどでは看板メニューとして親しまれてきました。
ウイスキーと炭酸だけ。
シンプルだからこそ奥深い。
そんな飲み物です。
しかし2000年代後半、サントリーが角ハイボールを大々的に展開します。
小雪さんが出演したCMを覚えている方も多いのではないでしょうか。
それまでのウイスキーには、
「おじさんのお酒」
「バーで飲むもの」
「少し影のある重たい飲み物」
というイメージがありました。
ところがハイボールは、
「食事に合う」
「居酒屋でわいわい気軽に飲める」
「女性でも楽しめる」
という新しい物語を与えました。
変わったのは中身ではありません。
飲み方と見せ方でした。
若者のビール離れや健康志向(糖質やプリン体の制限)の高まりでビールの消費量が落ち込んでいました。そこで、「ビールの代替」としてハイボールを送り出したのです。
転機② 世界がジャパニーズウイスキーを見つけた
その後、ジャパニーズウイスキーは海外の品評会で高い評価を受けるようになります。
山崎
響
竹鶴
日本では当たり前だった銘柄が、世界で評価され始めたのです。
すると海外からの需要が増えました。
日本人が気づくより先に、世界がその価値を見つけたとも言えるかもしれません。
転機③ 「マッサン」が火をつけた
2014年にはNHK朝の連続テレビ小説『マッサン』が放送されました。
ニッカウヰスキー創業者である竹鶴政孝氏をモデルにした物語です。
これによってウイスキーそのものへの関心が高まりました。
単なるお酒ではなく、
歴史や文化を持つ存在として多くの人に認識されるようになったのです。
転機④ 作れないという現実
そして最後に、最も重要な要因があります。
それは「作れない」ということです。
10年物は10年。
18年物は18年。
人気が出たからといって、来年から急に増やせるわけではありません。
しかも私が酒販店で働いていた頃は、ウイスキー冬の時代でした。
当然、メーカーも生産量を抑えていました。
売れないものを大量に作るわけにはいかないからです。
ところが、
ハイボールブーム。
海外人気。
マッサン。
これらが重なり、需要だけが急増しました。
しかし原酒は増えません。
結果として品薄になり、プレミア価格が付き、さらに注目が集まる。
そんな循環が生まれたのです。
商品が変わらなくても、価値は変わる
こうして振り返ってみると、私は一つのことに気づきます。
ウイスキーそのものは、実はあまり変わっていません。
もちろん品質向上はあります。
しかし、山崎が山崎であることに変わりはありません。
響が響であることにも変わりはありません。
大きく変わったのは、人々の見方です。
それまで見向きもされなかったものが、ある日突然魅力的に見えるようになった。
これはとても不思議なことだと思うのです。
価値は見つけ直されるもの
私たちはつい、
「新しいものに価値がある」
と思いがちです。
しかしハイボールブームを見ていると、そうとも言い切れません。
ハイボールは昔からありました。
ウイスキーも昔からありました。
新しく発明されたわけではありません。
それでも価値が再発見されたことで、多くの人にとって魅力的な存在になったのです。
これはワインの世界にも似ています。
ロゼワインも昔からありました。
オレンジワインも昔からありました。
しかし価値観が変わると、同じものが違って見えるようになります。
価値とは、新しく作られるものだけではないのかもしれません。
人生の選択肢も同じかもしれない
人生の選択肢というと、
何か新しいことを始めることだと思われがちです。
転職
副業
投資
移住
もちろんそれも一つの方法でしょう。
しかし時には、
昔好きだったことを思い出すこと。
後回しにしていた趣味を再開すること。
忘れていた夢をもう一度見つめ直すこと。
そんなことが人生を変えるきっかけになる場合もあります。
私自身、ワインも投資も、まったく新しい価値を見つけたというより、もともと興味があったものを深く掘り下げた結果でした。
新しいものを探すことだけが選択肢を増やす方法ではない。
すでに自分の中にある価値を見つけ直すことも、また豊かさにつながるのだと思います。

まとめ
私が酒販店で働いていた頃、ウイスキーは決して人気商品ではありませんでした。
それが今では世界中で争奪戦が起きています。
その背景には、
ハイボールブーム。
世界的評価。
マッサン。
そして熟成酒ならではの供給不足。
いくつもの要因がありました。
しかし私が最も興味深いと思うのは、その変化そのものです。
ハイボールは昔からありました。
ウイスキーも昔からありました。
変わったのは中身ではありません。
人々の見方です。
価値とは、新しく発明されるものだけではない。
すでにそこにあるものを見つけ直すことで生まれることもある。
もし今、
「何か新しいことを始めなければ」
と焦っている人がいるなら。
本当に必要なのは、新しい何かではなく、自分の中に眠っている価値を見つけ直すことなのかもしれません。
きっとすでにあなたの中に、自分では気づかない価値があるはずです。


