今、アメリカワインが再評価されているとのこと。
高級ワインの世界では、長い間、ボルドーやブルゴーニュが中心的な存在でした。
もちろん、今もその価値が失われたわけではありません。むしろ、世界のワイン市場を支える重要な産地であることに変わりはないでしょう。
しかし近年、その周辺に少しずつ新しい景色が広がっています。
イタリア、シャンパーニュ、そしてアメリカ。
これまで以上に、世界各地の優れたワインが二次市場で取引されるようになっているのです。
2026年6月にLiv-exから届いたメールでも、アメリカワインが世界のファインワイン市場で存在感を高めていることが紹介されていました。
ただし、ここで区別しておきたいことがあります。
アメリカワインが高く評価されるようになったことと、二次市場で存在感を高めていることは、同じ話ではありません。
では、いま起きている変化とは…
アメリカワインが評価されたのは、最近ではない
アメリカワインが世界で認められるようになったのは、決して最近のことではありません。
1976年には、フランスで行われたブラインドテイスティングで、カリフォルニアの赤ワインと白ワインが、それぞれフランスの名門ワインを上回る評価を受けました。
後に「パリスの審判」と呼ばれるこの出来事は、アメリカにも世界最高水準のワインを造る力があることを、多くの人に印象づけました。
その後も、オーパス・ワンやスクリーミング・イーグル、ハーラン・エステート、ドミナスなど、世界的に知られるワインが次々と登場しています。
つまり、アメリカワインの品質そのものが、最近になって初めて認められたわけではありません。
いま変わっているのは、そのワインが世界の二次流通市場で、どれほど広く売買されているかという部分です。

いま変わっているのは、二次市場での存在感
Liv-exは、世界のファインワインを専門業者同士で売買する取引市場です。
ここで扱われるワインには、飲んでおいしいだけでなく、再び売買できるだけの知名度や需要、価格の信頼性も求められます。
Liv-exによると、米国ワインが同社の取引額に占める割合は、約10年前には1%未満でした。
それが現在では、8%を超えています。
これは、かなり大きな変化です。
ただし、「ここ数年で突然人気が出た」という意味ではありません。
Liv-exの過去の資料でも、
米国ワインの取引額シェアは、2010年の0.1%から2021年には8.2%へと拡大していました。
アメリカワインの二次市場での成長は、2010年代を通じて少しずつ進んできた流れなのです。
現在見えているのは、一時的なブームというより、アメリカワインが世界のファインワイン市場の一角として定着しつつある姿なのでしょう。
なぜ今、アメリカワインが選ばれているのか
二次市場が成立するためには、品質が高いだけでは十分ではありません。
長く熟成できること。生産量が限られていること。世界に名前が知られていること。そして、買いたいと思う人が継続的に存在すること。
アメリカを代表するワインには、こうした条件が少しずつ揃ってきました。
なかでも象徴的なのが、スクリーミング・イーグルやオーパス・ワンです。
Liv-exの分析では、米国ワインは取引量以上に取引額が伸びています。
これは、アメリカワイン全体の価格が一様に上がっているというより、買い手がスクリーミング・イーグルなど、より高額なワインを積極的に選ぶようになったためだとされています。
また、買い手の広がりも見逃せません。
以前は英国の買い手が中心でしたが、その後はヨーロッパやアジアの市場参加者も増えてきました。
2023年以降は、米国の買い手自身も、ワイン購入額のうち米国ワインに振り向ける割合を高めています。
アメリカ国内だけで人気があるワインから、世界中の人が集め、保有し、売買するワインへ。
その位置づけが変わりつつあるのです。
ボルドーの価値が下がったわけではない
こうした話をすると、必ず「もはや、ボルドーの時代が終わった」と言う人が出てきますが、私はそうは思いませんし、多くの専門家の方々も決してボルドーを軽視したりしていません。
ボルドーには、長い歴史があります。
優れた生産者、熟成実績、世界的な流通網があり、現在も高級ワイン市場の重要な中心です。
変わったのは、ボルドーの価値ではなく、市場全体の広がりです。
Liv-exでは、2010年に取引額の95.8%を占めていたボルドーのシェアが、2021年には37.8%まで低下しました。
これは、ボルドーワインの品質が落ちたということではありません。アメリカやイタリア、シャンパーニュなど、ほかの地域のワインも二次市場で取引されるようになった結果です。
一つの産地だけに集中していた市場が、世界各地へ広がった。
そう捉えた方が、現在の変化を正確に表していると言えそうです。
私がカリフォルニアワインに惹かれてきた理由
私は以前から、カリフォルニアワインに惹かれてきました。
その代表が、オーパス・ワンです。
ワインを知らない人でも、名前は聞いたことがあるかもしれません。
オーパス・ワンは、ボルドーのシャトー・ムートン・ロートシルトと、カリフォルニアのロバート・モンダヴィによって生まれました。
ボルドーの伝統を受け継ぎながら、単なるフランスワインの模倣ではなく、カリフォルニアの土地で新しい価値を形にしたワインです。
そこには、伝統を否定せずに、新しい可能性を加えていく姿勢があります。
また、アメリカワインの魅力は、ナパ・ヴァレーの高級赤ワインだけではありません。
パソ・ロブレスでは、これまでの力強い赤ワインのイメージに加え、土地の個性や気候を生かした白ワインにも新しい動きが生まれています。
市場がアメリカワインに注目しているからではなく、自分が以前から惹かれてきたワインや産地が、世界でも広く認められていく様子には、どこか嬉しさや納得するものがあります。

選択肢が増えると、ワインの世界はもっと豊かになる
アメリカワインの取引が増えたからといって、すべてのアメリカワインの価格が上がるわけではありません。
また、市場で高く評価されるワインが、自分にとって一番おいしいワインだとも限りません。
市場の評価は、ワインを知るきっかけの一つです。
けれども、最終的に何を選ぶかは、その人自身の好みや価値観によって変わります。
ボルドーが好きな人もいれば、ブルゴーニュに惹かれる人もいる。
オーパス・ワンを選ぶ人もいれば、パソ・ロブレスの新しい白ワインに心を動かされる人もいるでしょう。
選択肢が増えると、迷うことも増えます。
けれども同時に、「有名だから」「昔からそうだから」という理由だけではなく、自分は何に惹かれるのかを考えられるようになります。
新しい選択肢が加わっても、昔からある価値が消えるわけではありません。
ボルドーも選べる。ブルゴーニュも、イタリアも、アメリカも選べる。
そのなかから、自分が本当に好きだと思えるものを探していく。
ボルドーを中心としてきた高級ワイン市場から、世界中の優れたワインが評価される市場へ。
それは投資対象が増えたというだけではありません。
私たちが自分の好みや価値観をもとに選べる世界が、少しずつ広がっていることの表れなのだと思います。
ボルドーか、ブルゴーニュか。
そんな時代から、世界中の優れたワインを選べる時代へ。
市場の変化を見ていると、豊かさとは「一つの正解を知ること」ではなく、「自分で選べること」なのだと感じます。
ワインも、お金も、人生も同じです。
知ることは、選択肢を増やすこと。
そして、本当の豊かさとは、増えた選択肢の中から、自分の意思で選べるようになることなのかもしれません。
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