一番おいしかったのは、翌日の一杯だった|ペンフォールズBIN128

ワインのある暮らし


ワインを開けた日の印象だけで、その一本を判断してしまうことがある。

けれど、少しだけ残ったワインを翌日に飲んでみると、驚くほど表情が変わっていることがある。

先日飲んだペンフォールズBIN128も、そんな一本だった。

 

妻と近江牛のサーロインを囲みながら楽しんだワインは、もちろんおいしかった。

けれど、私の記憶にいちばん強く残ったのは、その翌日。寝る前に一人で飲んだ、グラス一杯のBIN128だった。

近江牛に合わせたペンフォールズBIN128

今回飲んだのは、ペンフォールズBIN128 クナワラ・シラーズ2021。

オーストラリアを代表するワイナリー、ペンフォールズが造る赤ワインで、南オーストラリア州クナワラのシラーズが使われている。

アルコール度数は14.5%。一般的なワイン樽より少し大きな「ホグスヘッド」と呼ばれるフレンチオーク樽で熟成され、果実味と樽の風味の調和を図りながら、若いうちの親しみやすさと熟成する力の両方を備えたワインとして造られている。


この日、BIN128に合わせたのは、地元の農業高校の生徒たちが育てた近江牛のサーロインだった。

生徒たちが大切に育てた近江牛が販売されると知り、せっかくなら、その背景も含めて味わってみたいと思った。

サーロインのほかには、マッシュポテトと焼いた野菜。そこに赤ワインを用意すれば、それだけで少し特別な夕食になる。


ワインは料理のおいしさを引き立ててくれる。

けれど、その料理がどこから来たのか、誰が育てたのかを知っていると、食卓の時間には、味だけではない何かが加わるように思う。

 

最初に立ってきたのは、果実味ではなくアルコールだった

BIN128は、ワインセラーから出した約14度の状態で抜栓した。

グラスに注いで最初に感じたのは、豊かな果実の香りではなく、意外にもアルコールの、少しつんとする香りだった。

正直に言えば、

「うーん……これは、おいしいのかな」

と、少し不安になった。

 

シラーズらしい力強さを予想してはいたものの、一口目はやや重たく感じられた。

酸味やタンニンに、まだ少しギスギスとした硬さが残っていたように思う。
 

そして、その瞬間に頭をよぎったのは、自分の好みよりも妻のことだった。

「これは、妻があまり得意ではない味かもしれない」
 

せっかく近江牛と一緒に楽しもうと選んだワインである。自分がおいしいと感じても、妻が楽しめなければ、少し寂しい。

 

ところが、アルコールの香りが落ち着いてくると、ワインの印象も変わり始めた。

まろやかなタンニンが現れ、その奥から、ブドウの甘みを思わせる豊かな果実味が感じられる。
 

口に含んだ瞬間には重さがあったものの、飲み込むときには意外なほど滑らかだった。力強さはあるけれど、力だけで押し切るようなワインではない。

 

ちょうどそのとき、妻が言った。

「あ、これ好きかも。おいしい!」

 

そのひと言を聞いて、ほっとした。そして、素直にうれしかった。

ワインの評価には点数や難しい表現もあるけれど、同じ食卓を囲む人から自然にこぼれた「あ、これおいしい」「これ、好き」という言葉は、専門家が評するそれらとは、別の価値を持っている。

  

近江牛のサーロインとの相性

BIN128と近江牛のサーロインは、よく合っていたと思う。

サーロインの脂の甘みや濃厚な旨みに、BIN128の豊かな果実味とタンニンが負けていない。それでいて、ワインの酸味と渋みが、肉の脂を口の中を重たく残しすぎないように整えてくれた。

 

ワインだけで飲んだときに感じた少し硬い部分も、近江牛と一緒になると気になりにくい。

お互いの強さをぶつけ合うというより、肉の旨みをワインが受け止め、ワインの力強さを肉が自然になじませてくれる。そんな組み合わせだった。

きっとこれが、「相性がいい」ということなのだろう。

妻と二人でグラスに二杯〜三杯ほどずつ飲み、その日はボトルに少しワインを残した。

抜いたコルクをもう一度差し込み、通常の冷蔵庫へ入れた。保存用の器具を使ったわけでも、特別な工夫をしたわけでもない。

翌日の一杯で、ワインの印象が変わった

翌日の夜、寝る前に残っていたBIN128をグラスに注いだ。

合わせたのは、クリームチーズの味噌漬け。

 

これが絶品で、ワインや日本酒を飲むときに、ときどき妻が買ってきてくれる。クリームチーズのまろやかさに味噌の旨みと塩気が加わり、少しずつつまみながら飲むのにちょうどよい。

ワインは冷蔵庫から出したばかりだったため、香りは初日よりも控えめだった。

けれど、むしろその穏やかさが、この日の私には心地よかった。

 

初日に感じたアルコールの強さや、酸味とタンニンのギスギスした印象は、もうほとんど感じられない。タンニンはさらにまろやかになり、口当たりも柔らかくなっていた。
 

そして何より、喉を通る感触が驚くほど滑らかだった。

「昨日より、おいしいかもしれない」

 

近江牛と一緒に飲んだ初日のワインも、もちろんおいしかった。

それでも、私がこのBIN128にいちばん心を動かされたのは、翌日の静かな一杯だった。

華やかな料理もない。特別な保存をしたわけでもない。

冷蔵庫から取り出したワインをグラスに注ぎ、クリームチーズの味噌漬けをつまみながら、寝る前にゆっくりと飲んだだけだ。

その何気ない時間のなかで、このワインが持っていた柔らかさが、ようやく見えてきたように思う。

 

「しっかり造られたワイン」とは、こういうことなのかもしれない

開栓したワインは、空気に触れることで変化していく。

それは必ずしも、おいしさが失われていくことだけを意味しない。

今回のBIN128は、翌日になっても弱々しくなった印象はなかった。むしろ初日にあった硬さがほどけ、果実味、酸味、タンニンが、ひとつにまとまったように感じられた。

 

もちろん、すべてのワインが翌日においしくなるわけではない。保存方法や温度、ワインの種類、開栓時の状態によっても変わるだろう。

それでも、特別な保存をしなかったBIN128が翌日にもこれだけおいしかったことに、私はこのワインの余力を感じた。

「しっかりした造りをしているんだな」


専門的な分析ができなくても、二日間かけて一本のワインと向き合うことで、そんなことが自然に伝わってきた。

一日目だけでは見えない魅力がある

ワインを飲むと、つい最初の香りや一口目の印象で、「好き」「苦手」を決めたくなる。

私もBIN128を口にした直後は、アルコールの強さや重たい印象に少し不安を感じた。

 

けれど、グラスの中で少し時間がたつと、その奥からまろやかなタンニンと豊かな果実味が現れた。

そして翌日には、初日の硬さがほどけ、より柔らかく滑らかなワインになっていた。

最初に見えた表情が、そのワインのすべてではなかったのだ。

 

美味しい近江牛と、妻の「あ、これおいしい」という言葉があった一日目。

一人で静かに、クリームチーズの味噌漬けと楽しんだ二日目。

同じ一本のワインなのに、そこには違うおいしさがあった。

 

ワインは、ときどき翌日になってから、少しだけ本音を見せてくれる。

すぐに答えを出さず、少し時間を置いたからこそ出会える魅力もある。BIN128の最後の一杯は、そんなことを感じさせてくれた。

 

ワインの向こうにあるものを、もう少し

同じ一本のワインでも、合わせる料理や飲む相手、流れた時間によって、見せてくれる表情は変わります。

『葡萄の館からの手紙』では、ワインの話を入口に、ときにはお金や投資、これからの暮らしについても綴っています。

知識や正解を増やすためだけではなく、自分に合った選択肢を見つけ、自分の軸で選べるようになるために。

ブログよりも少し近い距離から、日々の気づきをお届けします。

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