2026年9月、ボルドーワインに新しい「物差し」が加わりました。
ミシュランが、ワイン生産者を評価する「MICHELIN Grapes(ミシュラン・グレープ)」のボルドー版を発表したのです。
最高評価の3 Grapesに選ばれたのは9つのシャトー。
その顔ぶれを見ていて、少し気になることがありました。
シャトー・ラフィット・ロートシルトとともに、シャトー・レオヴィル・ラス・カーズ、シャトー・モンローズが並んでいたからです。
ラフィットは、1855年のボルドー格付けで1級。レオヴィル・ラス・カーズとモンローズは2級です。
同じシャトーを見ていても、物差しが変われば見え方も変わります。
そして今回、そこへMICHELIN Grapesという新しい評価が加わりました。
そもそも、それぞれの格付けや評価は、ワインの何を見ているのでしょう。
MICHELIN Grapesは、何を評価しているのか
MICHELIN Grapesは、ミシュランが2025年12月に発表したワイン生産者の評価制度です。
2026年にブルゴーニュから選出が始まり、9月にはボルドー版が発表されました。
ボルドーでは83の生産者が選ばれ、9シャトーが3 Grapes、16シャトーが2 Grapes、37シャトーが1 Grape、21シャトーが「Selected」に選ばれています。
評価基準は、栽培の質、醸造技術、アイデンティティ、バランス、一貫性の5つ。
複数のヴィンテージを通して、生産者を評価します。
では、1855年の格付けで2級のレオヴィル・ラス・カーズやモンローズが、MICHELIN Grapesでは1級のラフィットと同じ最高評価に並んだことを、どう見ればよいのでしょう。
1855年の2級と、2026年の3 Grapes
1855年の格付けは、パリ万国博覧会をきっかけに生まれました。
ナポレオン3世の要請を受け、ボルドーの仲買人たちがシャトーの評判や当時の取引価格をもとに格付けしました。
赤ワインは1級から5級に分類され、レオヴィル・ラス・カーズとモンローズは2級、ラフィット・ロートシルトは1級に位置づけられています。
一方、MICHELIN Grapesが見るのは、栽培の質や醸造技術、ワインの個性、バランス、そして複数ヴィンテージにわたる一貫性です。
1855年格付けが歴史的な格付けとして受け継がれているのに対し、MICHELIN Grapesは現在の生産者を継続して見ていく評価制度です。
1855年と2026年。
同じシャトーを評価していても、見ているものが違います。
レオヴィル・ラス・カーズは、1855年とは別の物差しで見たときに最高評価を受けた、と考えると分かりやすくなります。
一本のワインを測るいくつもの物差し
一本のワインを選ぶとき、私たちは意外と多くのものを見ています。
シャトーの格付け、評論家の評価、価格、その年の気候や葡萄の出来、そのワインが歩んできた歴史。
どれも、その一本を知るための手がかりになります。
たとえば評論家による評価は、そのヴィンテージの品質を知る材料になります。
格付けや評論家の評価とは少し性質が違いますが、市場価格も、そのワインを人々がどう見ているのかを知る材料になります。
そして今回のMICHELIN Grapesは、生産者として積み重ねてきた品質や一貫性を、別の角度から見せてくれます。
同じ一本を見ていても、それぞれの物差しが教えてくれることは違います。
だからこそ、一つの評価だけでワインを見るよりも、
「この評価は、何を見ているのだろう」
と考えることで、その一本を少し立体的に見られるようになります。
私がレオヴィル・ラス・カーズ2022を選んだとき
実は私は、レオヴィル・ラス・カーズ2022を一本保有しています。
私が購入したのは、2025年11月ごろでした。
このワインに興味を持った理由の一つは、まだ瓶詰めされていない段階から、評論家による非常に高い評価を受けていたことでした。
そして、1855年格付けでは2級でありながら、1級シャトーに匹敵する実力を持つと評価されてきたこと。
一つのヴィンテージの評価だけでなく、このシャトーが長い時間をかけて積み上げてきた信頼にも惹かれました。
もう一つ、私にとって大きかったのが「出口」です。
10年後、あるいはもっと先まで持っていてもいい。
そのとき価格が上がっていれば売れるし、思うように上がっていなくて自分で飲むことを選んだとしても、きっと後悔しない。
そう思える一本だったことが、私には大切でした。
そして今回、レオヴィル・ラス・カーズが3 Grapesに選ばれました。
正直にいえば、嬉しかったです。
自分が選んだ生産者が、別の物差しでも高く評価されたことで、「あのときの選択は間違っていなかったのかな」と感じました。
評価がつくと、ワインの価値は変わるのか
MICHELIN Grapesの発表前と発表後で、レオヴィル・ラス・カーズというワインそのものは同じです。
それでも、私のように「選んでよかった」と感じる人はいるでしょう。
またこの評価制度ができたことで、これまで知らなかった人が興味を持つこともあるかもしれません。
そう考えると、評価には、すでにある価値を見つけやすくする働きがありそうです。
今回のMICHELIN Grapesによって市場価格が上がるかどうかは、まだ分かりません。
ワインの市場価格と「自分ならいくらで買うか」については、こちらの記事でも考えています。
「ワインは、いくらなら『買おう』に変わる?|ラフィット2016とマッセート2023から考える」
でも、新しい評価によって、それまで見えていなかった価値に気づく人がいる。
そして、その気づきが次の関心や選択につながっていくことは、とてもよいことだと感じています。
「高評価だから買う」の、その一歩先へ
格付けや評論家の評価は、ワインを選ぶときの大切な判断材料になります。
評価を見たときに、
「この評価は、何を見ているのだろう」
と考えてみる。
特定のヴィンテージなのか、生産者として積み重ねてきたものなのか。それとも、市場ではどう評価されているのか。
物差しが違えば、見えてくるものも違います。
いくつもの評価を参考にしながら、
自分なら、この一本にお金と時間を預けたいだろうか。
と考える。
その答えが、私にとってワインを選ぶときの大切な物差しです。
ワインを選ぶときも、お金の使い方も、そしてこれからの生き方も。
誰かの評価を参考にしながら、最後は自分が何を大切にしたいのかを考えて選ぶ。
そんな自分なりの価値観や「選ぶ理由」を持てることが、人生の豊かさや幸せにもつながっていくのだと思います。
メルマガ「葡萄の館からの手紙」は、ワインやお金をきっかけに、自分なりの価値観や「選ぶ理由」を少しずつ育てていくための手紙です。
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