ドン・ペリニヨン。通称、ドンペリ。
おそらく、多くの人が名前くらいは聞いたことのある有名なシャンパンです。
ところが、私が初めて飲んだとき、正直なところ、おいしいとは思いませんでした。
あまり旨みを感じられず、酵母の香りが強く感じられたのです。
「高級シャンパンとは、こういうものなのか」
そのときは、そんなふうに思いました。
ただ、そのドンペリを飲んだのは、付き合いで訪れたラウンジでした。
どのように保管され、どのような状態で提供されたのかは分かりません。最初に飲んだ一本だけで、ドンペリの品質や味を決めつけるつもりもありません。
それでも、私にとって初めてのドンペリが、期待していたようなおいしさではなかったことは確かです。
「うまい。なんだ、これは」
その後しばらくして、親しい友人たちとの会食で、ヴーヴ・クリコのホワイトラベルを飲みました。
口にした瞬間、
「うまい。なんだ、これは」
と思いました。
それまで持っていたシャンパンのイメージが、一気にひっくり返りました。
一緒にいた友人の一人が、
「ヴーヴ・クリコが、シャンパンの中で一番旨みがあると思う。しかも、一般的なイエローラベルよりホワイトラベルがうまいんだ」
と話していました。
その言葉に影響された部分は、きっとあります。
親しい友人たちとの楽しい食事だったことも、グラスの中の味わいと無関係ではなかったでしょう。
ワインの記憶は、液体だけでできているわけではありません。
誰と、どこで、どんな気持ちで飲んだのか。
それらも一緒になって、「おいしかった」という記憶をつくります。
だから、ラウンジで飲んだドンペリと、親しい友人たちと飲んだヴーヴ・クリコを、同じ条件で比べることはできません。
そのことを分かったうえで、それでも私の中には、
ヴーヴ・クリコのホワイトラベルはうまかった
という記憶が、はっきりと残っています。
甘さだけでは説明できない
この記事でヴーヴ・クリコのホワイトラベルと呼んでいるシャンパンの正式名称は、ヴーヴ・クリコ ドゥミ・セックです。
ドゥミ・セックは、一般的な辛口のブリュットよりも甘みを持たせたスタイルです。
ヴーヴ・クリコの公式情報によると、ドサージュは45g/L。甘みと果実味、丸みや芳醇さを生かした味わいとして造られています。
ドサージュとは、瓶内での二次発酵を終えたあとに、糖分を含む液体を加えて味わいを調整する工程です。その量は、シャンパンの甘辛度や全体のバランスを決める要素の一つになります。
ただ、私が惹かれているのは、単なる甘さではありません。
口の中に広がる厚みや、果実味とともに感じた旨みです。
もちろん、「旨み」というのは私自身の感覚です。同じシャンパンを飲んでも、別の人は違う印象を持つかもしれません。
その後、ドンペリの白やロゼ、ヴーヴ・クリコのイエローラベル、ルイ・ロデレール、ポメリーなど、さまざまなシャンパンを飲む機会がありました。
それでも今なお、私が最も旨みを感じ、好きなのはヴーヴ・クリコのホワイトラベルです。
もし誰かに、
「おいしいシャンパンを教えて」
と聞かれたら、私は断然、これを薦めます。
持ちたいのはドンペリ・ロゼ
ところが、投資対象として、あるいは長期保管するために持つ一本となると、私の選択は変わります。
私が持ちたいのは、ドン・ペリニヨンのロゼです。
ドン・ペリニヨンには、圧倒的なブランド力と知名度があります。
ワインに詳しい人だけでなく、普段あまりワインを飲まない人にも、その名前は知られています。
長いあいだ高い評価を重ね、熟成させることを前提とした品質も備えています。
もちろん、ヴーヴ・クリコにブランド力や熟成力がないという意味ではありません。
ただ、長く持ち、その価値を将来誰かに伝えることまで考えると、ドンペリの存在感は、他のシャンパンとは少し違うと私は感じます。
選ばれた年と、変わらない味
ドン・ペリニヨンは、白もロゼも毎年造られるわけではありません。
その年の葡萄と個性から、ドン・ペリニヨンが目指す世界を表現できると判断された年にだけ造られます。
造られる年が選ばれていることは、ドン・ペリニヨンの希少性を考える一つの要素であり、その名前に特別感を与えている理由の一つでもあります。
一方、ヴーヴ・クリコのイエローラベルやホワイトラベルは、その年に収穫された葡萄から造ったワインに、過去のリザーヴワインを組み合わせて造られます。
収穫年による違いを調えながら、ヴーヴ・クリコらしい味わいを継続して届けるためです。
選ばれた年の個性を表現するドンペリ。
年を越えて、変わらないスタイルを届けるヴーヴ・クリコ。
どちらが優れているという話ではありません。そもそも目指している価値が違います。
その違いを考えると、私が飲みたい一本としてヴーヴ・クリコを選び、長く持ちたい一本としてドンペリを選ぶことにも、それほど矛盾はないように思えてきます。
白よりもロゼを持ちたい理由
そのなかでも、私がドンペリの白よりロゼを持ちたいと思うのは、ロゼの方がさらに希少な存在だと感じるからです。
ドンペリ・ロゼは、これまでに造られてきたヴィンテージが白より限られ、約12年に及ぶセラーでの熟成を経て世に出ます。市場でも、一般に白より高い価格で流通しています。
生産量を直接比較できる公式資料は確認できませんでしたが、造られてきた年の少なさや熟成期間、市場での価格差を見ると、ロゼが白より限られた存在として扱われていることは分かります。
ただし、価格差のすべてを希少性だけで説明することはできません。長い熟成期間や造りの違い、ブランド内での位置づけなども価格に影響していると考えられます。
それらの背景も含めて、私にはロゼの方が長く持ちたい特別な一本に映ります。
お祝いの場で開けるなら
結婚式など、誰かの大切なお祝いの場で一本開けるとしても、私はドンペリ・ロゼを選びたいと思います。
味の好みだけで選ぶなら、ヴーヴ・クリコのホワイトラベル。
しかし、お祝いの場で開けるワインには、おいしさ以外の役割もあります。
名前を聞いたときの特別感。
ボトルを見た瞬間の高揚感。
その場にいる人たちにも価値が伝わること。
そして、その日の記憶を残す象徴になること。
自分だけで飲む一本なら、自分の好みで選べます。
しかし、誰かと祝うための一本には、その場を共にする人たちにも共有できる価値が必要になります。
私にとってドンペリ・ロゼは、その役割を任せたいと思える一本です。
自分が感じる価値と、誰かにも伝わる価値
ヴーヴ・クリコも、世界的に知られ、シャンパンを愛する多くの人から評価されてきたブランドです。
ですから、ヴーヴ・クリコの価値が、私一人の評価に依存しているわけではありません。
ここで私が分けて考えたいのは、それぞれのシャンパンが一般にどう評価されているかではなく、私が何を理由にその一本を選ぶのかです。
ヴーヴ・クリコのホワイトラベルを飲みたいと思うのは、私自身がそこに旨みを感じ、「また飲みたい」と思うからです。
一方、長く持つ一本としてドンペリを選ぶ理由には、私の好みだけでなく、その名前や価値が将来の相手にも伝わりやすいことが含まれています。
自分で飲む価値は、自分で決められます。
しかし、将来誰かに売るときの価値は、自分一人では決められません。
どれほど自分が好きなワインでも、それを欲しいと思う人がいなければ、市場での価格にはつながりません。
反対に、自分の好みに最も合う一本ではなくても、多くの人に名前や価値が知られ、継続して求められてきたワインには、第三者にも価値を伝えやすい強さがあります。
ただし、ブランド力があれば必ず値上がりするわけではありません。
知名度、評価、熟成力、希少性は、長く持つワインを考える際の判断材料です。将来の価格上昇を保証するものではありません。
購入価格や保管状態、市場環境、手放す方法によっても結果は変わります。
一本のシャンパンに、どんな役割を持たせるか
シャンパンを選ぶ理由は、一つではありません。
今、自分で飲んで楽しみたいのか。
長く保管して、熟成を待ちたいのか。
将来売る可能性を残したいのか。
大切な人に贈りたいのか。
特別なお祝いの場で開けたいのか。
目的が変われば、選ぶ一本も変わります。
私にとって、ヴーヴ・クリコのホワイトラベルは、自分で飲んで楽しみたいシャンパンです。
ドンペリ・ロゼは、長く持ちたいシャンパンであり、大切な場で開けたいシャンパンでもあります。
長く持っている間にも、選択肢は残ります。
売ってもいい。
自分で飲んでもいい。
誰かに贈ってもいい。
もう少し待ってもいい。
シャンパンは、持っている時間を楽しみながら、将来の選択肢も残すことができます。
だから私は、ワインを「飲める資産」と考えています。
好きなシャンパンと、持ちたいシャンパンが違ってもいい。
大切なのは、一般にどちらが優れているかではなく、その一本を何のために選ぶのかなのだと思います。
選ぶ理由を、もう少し考えてみませんか
メルマガ「葡萄の館からの手紙」では、ワインやお金をきっかけに、自分は何を大切にしたいのか、これからどんな未来を選びたいのかを、自分なりに考えるきっかけとなるような内容をお届けしています。
人生を、未来を考える。
そんな時間を持ちたいと思ったときに、読んでいただけたら嬉しいです。

