2026年10月1日、パリでシャトー・オー・ブリオンの蔵出しワインを集めたサザビーズの競売が行われました。
そのなかで、私が特に気になった一本があります。
オー・ブリオン1989の5Lボトル。
Decanterによると、62,500ユーロで落札され、このワインの同フォーマットにおける競売記録になったそうです。
5Lといえば、通常の750mlボトルなら6本以上。(ボルドーではこの5L瓶のことを ジェロボアム といます)
テーブルに置かれた姿を想像するだけでも、かなりの迫力です。
もちろん、高額になった理由を「大きな瓶だったから」だけで説明することはできません。
オー・ブリオンという生産者。
1989年というヴィンテージ。
そして、
シャトーのセラーから直接出されたという来歴。
いくつもの価値が重なっています。
それでも、このニュースを見て私は思いました。
大型瓶には、通常瓶とは違う魅力があるのではないか。
それは単に、珍しいとか、高く売れるかもしれないという話だけではなさそうです。
友人との食事の席に、マグナムやダブルマグナムがドンと置かれている。
それだけで少し場が華やぐ。
「うわっ!大きいな」
「これ何人分?」
そんな会話も始まりそうです。
ワインを飲む前から、すでに一本のボトルが場をつくってくれる。
大型瓶には、そんな面白さがあります。
では、飲む楽しみだけでなく、長く持つワインとして考えたときにはどうなのでしょうか。
投資の視点も交えながら、大型瓶の魅力を考えてみたいと思います。
大きさによる時間の流れの違い
マグナムは1.5L。通常瓶なら2本分。
ダブルマグナムは3Lで、通常瓶4本分です。
容量だけを見るなら、「通常瓶を何本か持つか、大型瓶を一本持つか」という違いに見えます。
けれども、中のワインにとっては同じではありません。
一般に、マグナムなどの大型瓶では、通常瓶よりも熟成がゆっくり進む傾向があります。
同じ生産者。
同じヴィンテージ。
同じワイン。
それでも瓶の大きさによって、その後の時間の進み方が変わってくる。
ここが面白いところです。
同じワインでも、瓶の大きさによって待つ時間が変わる。
「何を飲むか」だけでなく、「いつ飲みたいか」でも瓶の選び方が変わる。
長く持つワインを考えるなら、この違いは魅力の一つです。
テーブルに置かれた瞬間から、一本の役割が始まる
私が大型瓶に惹かれる理由は、熟成だけではありません。
むしろ、こちらの方が大きいかもしれません。
友人たちとの会食。
家族が集まる記念日。
何かの節目。
そこにマグナムやダブルマグナムが一本置かれていたら、それだけで少し特別な空気が生まれます。
通常瓶でも、ワインは楽しめます。
けれども、大型瓶には一目でわかる存在感があります。
いわば、テーブルの上の小さなイベントです。
そして、大きな一本から同じワインを注ぎ、みんなで分かち合う。
通常瓶を何本か開けるのとは、少し違った楽しさがあります。
あとになって、
「あのとき開けた大きなボトル」
と記憶に残るかもしれません。
これは投資の利回りには表れません。
でも、ワインを持つ理由としては、十分な価値があると思います。
売ってお金に戻すこともできる。
一方で、売らずに開ければ、その一本が場をつくってくれる。
大型瓶は、その二つの可能性をとてもわかりやすく持っているのです。
投資として見ると、通常瓶にも強みがある
ここで一度、投資の視点に戻ります。
大型瓶には希少性があり、長期保有にも面白さがあります。
ただし、希少だから売りやすいとは限りません。
買い手の数も、限られる可能性があります。
それでも、通常瓶には大型瓶にない大きな強みがあります。
分けられることです。
たとえば通常瓶を4本持っていれば、
1本は飲む。
何本かは売る。
残りはそのまま持つ。
という選択ができます。
ダブルマグナム1本では、そうはいきません。
売るなら一本。
飲むなら3Lを開ける。
つまり投資として考えれば、通常瓶の方が出口を細かく選べます。
大型瓶の希少性を取るか。
通常瓶の柔軟さを取るか。
ここは、どちらが優れているというより、何を目的に持つのかで変わります。
買う前に確認しておくこと
大型瓶でも、保管の基本が大きく変わるわけではありません。
温度や湿度が安定し、光や振動を避ける。
考え方は通常瓶と同じです。
違うのは、大きくて重いこと。
細かな保管方法を覚えるというより、
「買ったあと、どこでどう持ち続けるか」まで考えてから買う。
それくらいで十分だと思います。
大型瓶を持つなら、未来の場面まで想像したい
もし私がこれから大型瓶を一本選ぶなら、
「将来高く売れそうだから」
という理由だけでは買わないと思います。
長く持ちたいワインであること。
そのヴィンテージに魅力があること。
保管や売却まで含めて無理がないこと。
そして、
もし売らなかったとしても、いつか自分で開けたいと思えること。
友人たちと集まる日に、
「今日はこれを開けよう」
と大きなボトルを持っていく。
テーブルの上にドンと置いた瞬間、
「おおっ」
と声が上がる。
そんな場面まで思い描ける一本なら、持っている時間そのものも楽しめそうです。
通常瓶には、売ったり飲んだりする自由があります。
大型瓶には、ゆっくり待つ時間と、一つの場をつくる力があります。
どちらが投資として正解かを決める必要はありません。
その一本を、未来でどう使いたいのか。
そこまで考えて選べることも、ワインを長く持つ楽しみの一つなのだと思います。
メルマガ「葡萄の館からの手紙」では、お金や経済、投資についてだけでなく、飲んでおいしかったワインや、一本を選ぶ楽しさ、ワインがある時間についても綴っています。
お金をどう増やすか。
ワインを何のために持つか。
一見違う話のようですが、どちらにも「自分は何を大切にして、何を選ぶのか」という問いがあります。
そんなことを、日々の出来事から一緒に考えていける手紙にしたいと思っています。
よろしければ、ときどき「葡萄の館」をのぞきに来るような気持ちで受け取ってください。

