2026年9月初旬、ファインワイン市場に少し気になる動きがありました。
Liv-exによると、週間のファインワイン取引額は前週比53.6%増。ボルドーやブルゴーニュでも取引額が増えています。
ただ、一週間の数字だけで「ファインワイン市場が回復した」と判断するのはまだ早いでしょう。
以前の記事「ファインワイン市場は回復したのか|2026年上半期、選ばれたワインから見える変化」でも見たように、市場には安定化の兆しがある一方、長期で見れば価格調整の影響はまだ残っています。

今回、私が気になったのは市場全体よりも、その中で実際にどんな取引が成立しているのかでした。
目に留まったのが、2本のワインです。
シャトー・ラフィット・ロートシルト2016。
そして、
マッセート2023。
どちらも世界的に高く評価されるファインワインです。
それでも、市場がそれぞれの価格に示した反応には違いがありました。
良いワインを、「今、この価格で買いたい」と思わせるものは何なのでしょうか。
ラフィット2016には、10年分の判断材料がある
2026年8月末、Liv-exではラフィット2016が週間の取引金額でトップになりました。
Liv-exは、ラフィット2016を含む上位銘柄について、直近数カ月で取引価格が上昇傾向にあることも指摘しています。
では、今のラフィット2016には、どんな判断材料があるのでしょう。
2016年のボルドーは評価の高いヴィンテージで、ラフィット2016自体も高い評価を受けています。
しかし、それだけでは「なぜ今なのか」は分かりません。
リリースから、およそ10年。
その間には価格が上昇した時期もあれば、ファインワイン市場全体の調整とともに下落した時期もあります。
つまり現在の買い手には、評価、過去の市場価格、他のヴィンテージとの比較、実際の取引実績など、今の価格を判断するための材料が10年という時間の中で積み重なっています。
現在のラフィット2016が「安い」と断定することはできません。
ただ、それらを見たうえで「この価格なら買いたい」と判断する材料は揃ってきています。
Masseto 2023も、欲しくないわけではない
一方、リリースされたばかりのマッセート2023も、複数の有力な批評家から98点、99点という高い評価を受けています。
それでもLiv-exで実際に取引された価格は、リリース価格を6.4%下回っていました。
ここで、Liv-exの取引価格がどう決まるのかを少し確認しておきます。
株式市場をイメージすると分かりやすいかもしれません。
売り手の「売りたい価格」と、買い手の「買いたい価格」。
それが合ったところで取引が成立します。
つまり、誰かが一方的に「マッセート2023を6.4%値下げした」わけではありません。
その時点で、売り手の「売りたい」と買い手の「買いたい」が、リリース価格より6.4%低いところで出会ったのです。
そう考えると、この数字の見え方が少し変わってきます。
6.4%下がった。その価格では買う人がいた
「マッセート2023はリリース価格から6.4%下がった」
と見ることはできます。
でも私は、少し違うことも考えました。
6.4%下では、買いたい人がいた。
では、その買い手はなぜ、もっと安くなるまで待たなかったのでしょう。
さらに下がるのを待つこともできたはずです。でも、待っている間に買えなくなる可能性もある。
もしかすると、「もう少し待とう」と「待ったら買えなくなるかも」の間で、「この価格なら買おう」と判断したのかもしれません。
もちろん、これは想像です。
実際の買い手が「これ以上待てなかった」と考えたかどうかは分かりません。その後、さらに安い価格で取引される可能性もあります。
この6.4%という数字だけから、「需要が強い」「これから値上がりする」と判断することもできません。
それでも、
「6.4%下落した」で終わらず、「なぜその価格では買う人がいたのだろう」と考えてみる。
そこには、市場を見るもう一つの視点があるように思います。
「この価格なら」が取引をつくる
ラフィット2016とマッセート2023は、置かれている状況が違います。
ラフィット2016には約10年間の市場があり、マッセート2023の市場での時間は始まったばかりです。
それでも、取引が成立した瞬間には共通するものがあります。
売り手の「この価格なら売りたい」と、買い手の「この価格なら買いたい」が出会ったことです。
優良ヴィンテージである2016年のラフィットだからといって、いくらでも買うわけではありません。
マッセートが98点、99点という高い評価を受けているからといって、いくらでも買うわけでもありません。
良いワインであることと、「今、この価格で買いたいワイン」であることは、同じではない。
ファインワインの市場価格を見ると、つい「上がった」「下がった」という数字に目が向きます。
けれど、その向こう側には人がいます。
欲しい。
でも、もう少し安くなるかもしれない。
まだ待とう。
でも待っている間に、誰かに買われるかもしれない。
そして、ある価格で、
「この価格なら買おう」
と判断する。
そう考えると、価格を見るときの問いも少し変わります。
「いくら上がったか、下がったか」だけではなく、
「なぜ、この価格なら買う人が現れたのだろう。」
という問いに変わるのです。
良いワインなら、いつ買ってもいいのだろうか
ここで最初の問いに戻ります。
良いワインなら、いつ買ってもいいのでしょうか。
私は、そうとは限らないと思います。
評価やヴィンテージ、熟成可能性、そして価格。どれもワインを選ぶ材料になります。
そのうえで、自分にも問いかけてみる。
なぜ私は、この一本を「今」「この価格で」持ちたいのか。
10年間セラーに置くのであれば、その間、お金もその一本に預けることになります。
投資対象として考えるなら、10年後にもそのワインを「欲しい」と思う人を想像できるか、という視点もあるでしょう。
大切なのは、値段が上がるワインを当てることより、自分なりにその一本を選ぶ理由を持つことなのだと思います。
Masseto 2023、答えはこれから
マッセート2023がこれからどう動くのかは分かりません。
さらに価格を下げるかもしれません。
反対に、いつか振り返ったとき、この6.4%下での取引が違って見える日が来るかもしれません。
だから、この一本はしばらく追いかけてみたいと思います。
上がるか、下がるかを当てるためではありません。
市場がどの価格で「買おう」に変わっていくのかを見てみたいからです。
その変化を見ていくことも、次の一本を選ぶ目を育てる材料になるように思います。

